Tsuyoshi NAKATOMI / ナカトミツヨシ

Tsuyoshi NAKATOMI

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“sound” series のはなし -  by Tsuyoshi NAKATOMI

“sound” series のはなし

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“sound” series は、フィールドレコーディングで収録した音をもとに一本ずつ手で線をひき、その線をプロッターで描きなおすことで、さまざまな音の集合体としての景色(サウンドスケープ)を描くシリーズ。

土地や環境を聴き取る楽しさ

僕たちは多くの音に囲まれて生きているが、普段そのことに自覚的な人は少ないだろう。人間の聴覚はフィルタリングが得意で、聞こうと思えば雑踏の中でも話し相手の言葉だけを聞き取ることもできるが、逆に「聞こうとしなければ」周りの音は思ったほど耳に届いていない。

意識的に周りの音に気を配って耳を立ててみると、僕たちの周りでは本当に豊かな音で溢れ満たされている。そしてその音はどこへ行っても同じ音が聞こえるわけではなく、場所が変わればその土地独特の音があり、重ねられた歴史が放つ音がある。例え同じ場所でも、天候や季節、さまざまな要因が複雑に重なって、その日にしか聴くことができない音が奏でられている。

音は、耳で聴く景色

“sound” series では、そんな音たちの集合体であるサウンドスケープ(音景色)を、線の集合体と見立てて描いている。

この線は人の声、あの線は水の音…といったように、線一本一本に音を想って、フィールドレコーディングで収録された音を聴きながら、手書きで線を描く。必然的に、音の多い場所は線の数も多く、静かな場所は線の数も少なくなる。ある音が流れを変え、他の音がその流れに沿うこともあれば、違う動きをすることもある。その一つ一つがぶつかり、また照応することで、音(線)たちが集まって一つの形(景色)に見える。

人の声、風の音、水のせせらぎ、車のエンジン音。僕たちの周りでは数え切れないほどの音が奏でられている。そこには場所の固有性があり、しかもその時でしか味わうことのできない「瞬間」がある。音は、耳で聴く景色なのだ。その瞬間の音(景色)を描く “sound” series は僕にとっては写生であり、写真でもある。

そして作品ごとに実際に聞いた音も併せて掲載していきたいと思う。 “sound” series をとおして今一度、音を聞く楽しさを感じてもらえると嬉しい。

プログラムにも音を聴いてもらい、対話しながら仕上げる

耳で聴き、手で描くこのシリーズは非常にアナログで身体的な作品だけれど、最後のステップとしてあえてプロッターで描きなおすことによって、完成となる。

僕の作品は人間とプログラムの対話、デジタルとアナログの融合が根源的な主題となる作品が多い。今の時代、全てがアナログで成り立っているわけではない。その現実としての時代感や肌感を描きたいと思い、今作ではあえてプログラムと対話をしながら最後の仕上げを行なっている。

フィールドレコーディングで収録した音を、僕が耳で聴き、そして僕が手を使って絵に描く。それをプロッターで描き直す際に、その時の音をプログラムにも聴いてもらい、音の印象や気配や感情をありのまま感じてもらった上で、プロッターで描く際の筆記具の速度や抑揚を考えて描いてもらっている。

そして僕もリアルタイムでその描画を見ながら、しかし僕はこの線はこう思う、僕は感情をこう表現する、とインターフェイスを介してプログラムへ伝え、プログラムと対話をしながら最終的な絵を描いていく。

現実と虚構、デジタルとアナログ、人間とプログラム。その境界線があやふやな今でしか描けない、境界に滲みのある絵を描きていきたい。

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