
音に自分の感情を載せて描く ― “yohaku” series
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“yohaku” series は、身の回りにある環境音を聴きながら、無数の線を1本ずつ積み重ねることで心の内面を描くシリーズ。目に見えるかたちよりも、目に見えない空気感や時間の流れ、感情の動きに耳を澄ませることを大切にしている。
制作の際には、都市のざわめき、雨音、水の流れ、風の通り抜ける音など、フィールドレコーディングで収録した環境音を聴きながら一本一本手書きで線を引いている。その音に身を委ねることで、外からの刺激と内側の反応が交わり、一瞬ごとの思考や感情が線としてあらわれていく。
1本の線は、そのときに立ち上がった感情そのもの。それが何百、何千と重ねられることで、やがてひとつのかたちが立ち上がる。石のようにも見えるその抽象的なフォルムは、心の層のようでもあり、時間の重なりのようでもある。
絵そのものはデジタル上で手描きをしているが、出力にはプロッターを使っている。その際、絵の元となった環境音をプログラムにも聞いてもらっており、プロッターはその音に応じて、描画の速度や抑揚を変えながら線を引いていく。
そのプロッターの動きから感じる感情に、僕はインターフェイスを通じてリアルタイムで自分の感情をプログラムに返していく。それは、プログラム(プロッター)との照応の中で行う対話のようなものであり、互いに影響を与えながら絵を形づくっていく。その緊張感のなかで描かれる線は、人だけでも、プロッターだけでも描けない線になっている。
各作品には、制作時に聴いていた環境音が音源として紐づいている。視覚だけでなく、耳を傾けることで作品は空間と繋がり、そして観ていただいている皆さまの内面にも静かに響いてほしいと願っている。
余白とは、ただ空いている場所のことではない。そこには、満たされていないからこそ感じ取れる気配があり、言葉にしないからこそ届く静けさがあると、僕は信じている。内側だけで完結せず、外とつながることで初めて作品が立ち上がっていく──そんな、開かれた関係性としての余白を描いていきたいと思っている。